障害年金「知的障害と統合失調症は別傷病?」

障害年金請求において、知的障害と統合失調症が併存しているようなケースでは、2つの病気を同一傷病とみるのでしょうか。あるいは別傷病とみるのでしょうか。あまり考える機会はないようで、よくあることです。

統合失調症で年金請求をしたが・・・

昨年、統合失調症で長いこと通院しているという方から、筆者の事務所に「障害年金の相談電話」がきました。正確に言えば、電話の相手はその方のお母様でした。統合失調症で障害年金請求を検討しているのは、Y市在住のZさん(30代後半・男性)。10年前から統合失調症を患い、通院していましたが、体調はなかなか良くならず、家にこもる日々が続いたそうです。将来を心配したお母様が、障害年金のことを知り、筆者の事務所に電話をくれたのです。Zさんのお母さんは『障害年金のことは全くわからないから・・・』ということで、筆者がZさんの障害年金請求においてのいっさいの行為を行うようになりました。「10年以上前から家から出れない状況」ということでしたので、障害年金の等級に該当する可能性はあるでしょう。主治医の先生も障害年金の請求を勧めてくれているそうです。あとは「納付要件」が気がかりでした。Zさんは高校を2年で中退し、それから一度も定職につかず、アルバイトを転々としていたということです。その話が本当だとすれば、Zさんの障害年金は障害基礎年金です。委任状をいただき、本格的に動き出したのですが、筆者は出鼻をくじかれます。Zさんは20歳になってから一度も年金保険料を支払っていなかったのです。「納付要件」はかすりもしません。Zさんの統合失調症での初診日は20を過ぎてからですから「20前傷病」にも該当しません。障害年金の受給への道は早くも、「夢破れた」形になりました。

統合失調症「知的障害かも?」

知的障害であることが判明

20歳になってから、一度も年金を支払っていなかったZさん。統合失調症での障害年金請求の途はあえなく絶たれたわけですが、ひとつ気になったのがZさんの症状。お母様から伺っているお話をきいている限り、確かに統合失調症の症状が顕著なのはわかったのですが、どうも知的な遅れがあるような気がしたのです。Zさんは高校中退でしたが、その高校は、言い方は悪いですが、難易度は一番低いところでしたし、かつて受任した方が、Zさんと同じ高校を出ていて、知的障害で障害基礎年金を受給していたのです。お母様の言葉をそのまま挙げれば『本どころか漫画の文字も読めない』『コミュニケーション能力が低く、小学校からずっといじめられていた』『簡単な計算ができない』など、知的障害の方の障害年金を請求をお手伝いさせていただくときの聞き取り調査で、よく伺うお話だったたのです。大変失礼なことは承知の上で、筆者はお母様に『もしかしたら、知的障害の症状がおありのような気もしますが、どうでしょうか。』と申しあげました。お母様も『何となくそんな気もしてたのですが、医師も何も言わないですし・・・』とおっしゃいました。そこで、いつも通う精神科とは別の病院で検査をしてもらったところ、軽度の知的障害ということが判明しました。

知的障害・統合失調症「別傷病?」

30代後半にして、軽度の知的障害ということが判明したZさん。Zさんとは、障害年金に関する委任契約はすでに切れていました。ただ、『知的障害で障害年金を請求するという選択肢もあるのではないか、知的障害なら「納付要件」は問われないですから・・・』とZさんのお母様にお話をしたような気がします。Zさんのお母様はさほど気に留めていませんでした。しかし、その数カ月後にZさんのお母様から電話があり、筆者との委任契約が終了したすぐに、知的障害で、20歳前傷病ということで、障害年金を請求していたということを知ります。『あの後、先生が言っていたように、知的障害で障害年金を請求してみたのです。そしたら2か月ちょっとして、「不支給」の通知がきたのです。もうあの子は障害年金をもらうことはできないのでしょうか?』Zさんのお母様は涙ぐみながら、そう言っていたのを覚えています。Zさんの知的障害での診断書を見ましたが、統合失調症のことはいっさい触れられていなかったはずです。知的障害単体で障害等級不該当だったということです。であれば、知的障害と統合失調症を併せた状態で診断書を記入してもらい、障害年金を請求できないのか?ということを考えました。そこででてくるのが、「知的障害と統合失調症は別傷病か、それとも同一傷病か」というはなしです。さてどうなのでしょうか?

「別傷病なの?同一傷病なの?」

知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している時はどう扱うのか?

それにしても、知的障害や発達障害と、統合失調症などの精神疾患が併存している時は、それらは別傷病と扱うのでしょうか、それとも同一傷病と扱うのでしょうか。平成23年7月13日付けで、厚生労働省は以下のように回答しております。

知的障害や発達障害と他の精神疾患を併発しているケースについては、障害 の特質性から初診日及び障害状態の認定契機のついて次のとおり整理するが、 認定に当たっては、これらを目安に発病の経過や症状から総合的に判断する。

(1) うつ病又は統合失調症と診断されていた者に後から発達障害が判明 するケースについては、そのほとんどが診断名の変更であり、あらたな 疾病が発症したものではないことから別疾病とせず「同一疾病」として扱う。

(2) 発達障害と診断された者に後からうつ病や神経症で精神病様態を併 発した場合は、うつ病や精神病様態は、発達障害が起因して発症したも のとの考えが一般的であることから「同一疾病」として扱う。

(3) 知的障害と発達障害は、いずれも20歳前に発症するものとされてい るので、知的障害と判断されたが障害年金の受給に至らない程度の者に 後から発達障害が診断され障害等級に該当する場合は、原則「同一疾病」 として扱う。 例えば、知的障害は3級程度であった者が社会生活に適応できず、発 達障害の症状が顕著になった場合などは「同一疾病」とし、事後重症扱 いとする。 なお、知的障害を伴わない者や3級不該当程度の知的障害がある者に ついては、発達障害の症状により、はじめて診療を受けた日を初診とし、 「別疾病」として扱う。 (4) 知的障害と診断された者に後からうつ病が発症した場合は、知的障害が起因して発症したという考え方が一般的であることから「同一疾病」 とする。

(5) 知的障害と診断された者に後から神経症で精神病様態を併発した場 合は「別疾病」とする。 ただし、「統合失調症(F2)」の病態を示している場合は、統合失 調症が併発した場合として取り扱い、「そううつ病(気分(感情)障害) (F3)」の病態を示している場合は、うつ病が併発した場合として取 り扱う。)

(6) 発達障害や知的障害である者に後から統合失調症が発症することは、 極めて少ないとされていることから原則「別疾病」とする。 ただし、「同一疾病」と考えられるケースとしては、発達障害や知的 障害の症状の中には、稀に統合失調症の様態を呈すものもあり、このよ うな症状があると作成医が統合失調症の診断名を発達障害や知的障害の 傷病名に付してくることがある。したがって、このような場合は、「同一 疾病」とする。

(参考) 発達障害は、ICD-10では、F80からF89、F90からF98にあたる。

<給付情 2011-121>より

Zさんのケースは、上記(6)にあたります。つまり、知的障害である人が、後に統合失調症に発症することは、レアなケースということで、原則「別傷病」であるということです。しかし、「同一傷病」と取り扱うケースもあるということで、厚生労働省の見解によれば、「発達障害や知的 障害の症状の中には、稀に統合失調症の様態を呈すものもあり、このよ うな症状があると作成医が統合失調症の診断名を発達障害や知的障害の 傷病名に付してくることがある。したがって、このような場合は、「同一 疾病」とする。」ということです。しかし、これもよく意味はわかりません。というのも「知的障害の症状の中に、統合失調症の様態を呈すもの」とはいったいどういったものなのかはわからないからです。

まあ、原則的に、知的障害と統合失調症は「別傷病」と扱われるということでしょう。

知的障害・統合失調症「別傷病なら」

障害年金は受給できるのか?

Zさんは、30代後半の男性。10年以上前から通院している統合失調症では、「納付要件」がなく障害年金は請求できません。知的障害では請求するものの、「不支給」。では知的障害と統合失調症の症状を併せた形で障害年金は認定できないのでしょうか。両傷病は「別傷病」ということです。そもそも、二つの傷病を別々に請求しようにも、統合失調症の初診日には、年金を全く払っていないということで「納付要件」はありません。では「はじめて2級」での請求はできないのでしょうか。知的障害が障害基礎年金2級不該当とすれば、「はじめて2級」という方法も考えられそうですが、どうでしょう。知的障害の初診日は生来性ということになりますので、後発の傷病は統合失調症です。ですから、初診日要件は統合失調症の初診日で見ます。そうなると、それこそ「納付要件」がありませんので、この可能性もありません。

先述した、厚生労働省の見解である「発達障害や知的 障害の症状の中には、稀に統合失調症の様態を呈すものもあり・・・・」という状態ではないかということも、主治医にあたってみましたが、その先生の見解では『そういったものではありません。』ということでした。

残念ながら、Zさんは障害年金を受給することはできませんでした。やはり、年金はきちっと納めていなくてはならないということでしょう。

障害年金「知的障害と統合失調症は別傷病?」

原則的に、知的障害と統合失調症は「別傷病」という扱いになります。しかし、稀に同一傷病と扱われることもあります。主治医に確認してみてはいかがでしょうか。

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